タイトルに入っている「セイ」が、本書に登場するわんこの名前。
個人的に衝撃的だったこの1冊から考えたことを書いておきます。
この本、すごく「わんこのことがわかってる」っていう感じのする本でした。
作者は久保寺健彦氏。『青少年のための小説入門』の方が、著作としては有名かもしれません(こちらも面白かったですが、個人的には今回紹介する『空とセイとぼくと』がよりよかったです)。
※この記事は、あらすじと冒頭部分までの話がほとんどです。内容にかかわるところは次ページにしておきます(‘ω’)ノ※
あらすじ
父親を亡くし、犬のセイとホームレス生活をしていた零。ある日、病気になったセイの治療費を捻出するためホストになるが、読み書きもできない零は失敗ばかり。だが、その犬並みの嗅覚を使って、次第に頭角を現し始め…。
本書裏表紙より
主人公は「零」。ストーリーとしては、零の成長物語…という感じです。
あらすじだけ見ると荒唐無稽な感じがするかもしれませんが、地に足のついた、生々しくもいい小説でした。
そしてとにかく、わんこの「セイ」が…いいんです。
セイとの出会い
セイは他のホームレスのところに捨てられたわんこでした。
犬と遊びたくてセイを散歩に連れ出した主人公「零」でしたが、数日で嫌になってしまい散歩をサボります。
すると…
日がくれて、きょうは散歩に行けそうにないと気づくと、とたんに鼻声で鳴き出した。犬じいさんの怒る声がして、しばらくはおさまるけど、また鳴き出す。
本書p.25より
(犬じいさんというのは、セイをもともと飼っていたホームレスのあだ名です)
で、犬じいさんに怒鳴られた主人公はしぶしぶセイを散歩に連れ出すのです。
このシーンが「犬」というものを物語っている気がします。
以前「犬を飼うってステキです…か?」で紹介したように、世話をし始めたらやめられない、んですよね。
ただ可愛いだけでも癒しになるわけでもなく、毎日決まったことをしてやらないといけないある意味面倒なもの。犬の姿がよく現れていると思います。
人と暮らす犬
主人公がホストとして働き始めるのはセイの病気がきっかけです。
そもそもこの病気にかかった原因は、ホームレス生活の過酷さ。
たくましく生きていたセイでしたが、働き始めてお金を手に入れた主人公の手によって、暮らしはかなり改善されるわけです。
わんこって本当に、人に依存した存在だなあと思いました。
何を食べさせるか。
どこに住まわせるか。
全部、人間が決めたとおりにしかならない。
だからこそ、人間が「わんこにとっての一番いい環境」を考えて動いてあげないといけません。
犬の気持ち
この本が良かったのは、変にセイの気持ちを代弁するところがなかったところにもあります。
しいちゃんやシェルくんを見て、「今こういうことを思ってるんだろうなあ」と考えることはあります。
でも、「何考えてるかわからん」と思うこともたくさんあります。
実際、わんこの考えていることを、人間が本当に「理解する」ことはできないんだろうと思います。
(人間同士だって、気持ちをわかり合うのは難しいですよね…)
なんでかわからないけど、そばにいてくれると心強い。一緒に遊ぶと楽しい。
そういう根源的な部分が、人が犬と暮らす理由なんじゃないかと思いました。
グッときたポイント
作中のセイについての描写で、これはっ、と思った場所が何箇所かありました。
ネタバレがやだな、という人は、この先はぜひ読んでからご覧ください。
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